人の頼みは全部聞いてしまうのに
頼まれると、とりあえず分かりましたと言ってしまいますか。

私はそうです。無理そうなのに、口からは先に分かりましたと出ます。そして電話を切ってから、これどうしようと思います。

ところがこれは、心が広いからではありませんでした。断るということが、私にとっては計算の合わない話だったんです。


一度の断りが、関係まるごとで計算されます

人の頼みは全部聞いてしまうのに

ひとつめの理由は、規模を測りまちがえていることです。

頭の中で、こんな拡大が自動的に起きます。

今回の頼みを断る → この人が自分をよく思わなくなる → 関係が悪くなる

実際に起きることは、頼みひとつを引き受けられないことです。ところが感じとしては、関係まるごとを賭けているようになります。

ですから断るのが難しいのは当たり前です。頼みひとつを前にして、関係を失うかどうかを計算しているわけですから。はかりに載せた重さそのものがまちがっているんです。


断る時だけ、理由が要ります

人の頼みは全部聞いてしまうのに

ふたつめが少し不思議な点です。引き受けるのに理由は要らないのに、断るには要ります。

分かりましたと言えば、誰も理由を聞きません。ところが難しそうですと言うと、たいてい次の質問が来ます。どうして?

ですから断るには、説得力のある事由をつくらなければなりません。 先約があるとか、体調がよくないとか。

問題は、それらしい事由がない時です。ただやりたくない、ただ余力がない時。それは事由として認めてもらえない気がするので、けっきょく引き受けてしまいます。

この非対称がある限り、断るのはずっと難しいままです。するたびに言い訳をひとつ用意しなければなりませんから。


断る代償はすぐ、引き受ける代償はあとで来ます

人の頼みは全部聞いてしまうのに

三つめがいちばん決定的です。二つの選択は、代償の届く時点がちがいます。

断れば → その場の気まずさが今すぐ来ます
引き受ければ → 今は楽で、代償は週末に来ます

私たちは、今目の前にあるものにずっと大きく反応します。ですから毎回、引き受けるほうに傾きます。 意志が弱いのではなく、はかりが傾いているんです。

そしてこれが繰り返されると、週末が消え続けます。そのたびに、あの一瞬の気まずさひとつを避けた代わりに。


全部聞いても、近くはなりません

人の頼みは全部聞いてしまうのに

そしてこの話をどうしてもしたいです。全部聞いてあげると、ありがとうとは言われます。ところが近くはならないんです。

助けをやりとりする関係は、片側に傾いています。自分はずっと与える側で、相手は受け取る側。すると相手は自分を、都合のいい人としては知っていても、知っている人ではなくなります。

自分が最近何がつらいか、何を考えているかは、その関係に入る場所がないからです。頼みと承諾しか行き来しませんから。

だから全部聞いてあげる人のまわりには人が多いのに、話す場所はありません。 役に立つ人と、近い人は別の話です。


では、どうすればいいのか

人の頼みは全部聞いてしまうのに

二つだけお伝えします。

ひとつ。断る時に理由をつけないでください。

今回は難しそうです。ここで終わりにしてかまいません。

理由をつけると、相手がその理由を反論できるようになります。 忙しいと言えばいつなら空くのかと聞かれ、別の用があると言えばずらせないかと聞かれます。理由は交渉の材料になります。ところが理由がなければ、交渉するものがありません。

ふたつ。即答しないでください。

考えてから連絡します。この一言で十分です。

即答を求めるのは、たいてい承諾を引き出そうとする圧力です。ところが一日だけ延ばせば、さきほどの時点のちがいが消えます。週末が消えるということが、その時には見えるからです。

そして一日延ばしたくらいで関係は悪くなりません。それもやってみると分かります。


まとめると

人の頼みは全部聞いてしまうのに

・一度の断りを関係まるごとに拡大して計算している。はかりに載せた重さがまちがっている
・引き受けるのに理由は要らないのに、断る時だけ要る。だから毎回言い訳をつくることになる
・断る代償は今、引き受ける代償はあとで来る。だから毎回引き受けるほうに傾く
・全部聞いても近くはならない。役に立つ人と近い人は別の話
・断る時に理由をつけない。理由は交渉の材料になる
・即答しない。一日延ばすだけで、引き受けたあとの代償が見える


ただ、これで足りない時もあります

人の頼みは全部聞いてしまうのに

・眠れない日が続く、または眠りすぎる
・食べるのがつらい
・洗う、掃除といった基本的なことができない
・自分を傷つけたくなる

こういう状態なら、記録で解決しようとしないでください。その時は専門家に会うのが正解です。記録は心を整理する道具であって、治療ではありません。

そして断ると実際に不利益が来る関係なら、今日の話はそのままは当てはまりません。職場の上下関係や、断ることが安全を脅かす状況なら、それは個人の話し方の問題ではありません。その時はひとりで解決しようとせず、外の助けを求めてください。

私は心の専門家ではありません。ただ、話す場所がなかったことのある人間です。


🌲 私は名もなき森という匿名の記録の場所をつくっています。
コメントも評価もなく、ただ書きとめるだけの場所です。
何も頼まない場所です。
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